「えーと、それって、本屋さんなんだよね? 大丈夫? あやしい宗教団体とかじゃ、ないよね?」
久しぶりに会った友達に、ハマっている本屋のことを話したら、そんなふうに、心配されてしまった。それはまるで、ダメな男に引っ掛かっているんじゃないの? とでも言われているかのようで、自分でも、それに似ているところはあるかもしれないな、と思わず苦笑いしてしまう。その本屋の名前は、天狼院書店という。
初めて天狼院書店のことを知ったのは、いつのことなのか、もう思い出せないくらいだ。エソラ池袋店に、変わった名前の本屋があるなあと思ったのが最初だっただろうか。お店に入って、なんとなく本を手に取って見えていると、「その本の著者の方をお呼びして、今度イベントをするんですよ。よろしければ、いかがですか?」などと、店員さんが話しかけてくる。洋服屋では、よく店員さんが話しかけてくるが、本屋なのに、そんな感じなのだ。初めて入ったときは、店員さんに話しかけられて、とても戸惑った。それでも、不思議と嫌な感じはしなくて、ついつい、話を聞いてしまう。話を聞くと、ここは、本の先のことまで体験させてくれる本屋で、だからイベントも行っているのだ、ということがわかった。今まで私が行ったことのある本屋とは違うものだと思えば、店員さんに話しかけられても、そんなにビビることはない。そうして、池袋に行くと、たまにエソラ池袋店に立ち寄るようになった。
そんなあるとき、たまたま観ていたテレビ番組で、雑司ヶ谷の天狼院書店が紹介されていた。秘めフォトという、女性限定の、セクシーな写真を撮ってもらえるイベントがあるらしい。それまで、セクシーとは、ほど遠い人生を送ってきた私は、絶対に行きたい! と思った。ずっと、自分は色気がないと思っていて、体に対してのコンプレックスが強かったので、セクシーな写真を撮ってもらえたら、何か変わるのではないかと思ったのだ。次に池袋に行ったら申し込もう、そう思っていたが、実際に、エソラ池袋店にあるイベントのチラシを見たら、急に恐れをなしてしまった。それまでも、エソラ池袋店には、きっとチラシはあっただろうが、イベントのことを知らなかったので、まじまじと見たことがなかった。チラシに載っているのは、ほとんど裸同然の女性だった。こんなに脱がないといけないのか、ほとんど裸じゃないか、恥ずかしい、と思うとなかなか踏ん切りがつかず、3年ぐらい、迷いに迷っていた。
ようやく、秘めフォトに参加することができたのは、夫の従姉妹が亡くなったことがきっかけだった。年齢が近いので、それはもう、ショックを受けた。そして、人生は以外と短いかもしれないと思い、やりたいことがあったら、思い切ってやってみようと決めたのだ。気持ちが固まったら、あとは行動するのみ。秘めフォトと同時に、気になっていたカメラ講座も申し込み、ここから私の天狼院ライフは始まったのだった。
秘めフォトは、思っていた以上に楽しかった。あんなに、恥ずかしいと思っていたのに、いざ始まってみたら、カメラマンの指示に従って、ノリノリでポーズを決めていた。自分の裸をカメラの前に出せたこと、それを楽しいと思えたことが、私にとって、大きな自信になった。カメラ講座は、初心者向けということで、基本的なことから教えていただいた。通信での受講で、最後まで付いていけるか心配だったけれど、課題の投稿や、それに対してのフィードバックがあって、楽しく学ぶことができた。この講座で習ったことは、今でもとても役に立っている。
その後、やりたいことをやるプロジェクトの一環として、ランニングを始めたが、捻挫をしてしまい、ランニングができなくなってしまった。せっかく始めたのに悔しい、という行き場のない気持ちを発散させるために、文章を書くための講座、ライティング・ゼミを受講することにした。この講座は、天狼院書店でも一番人気の講座らしく、その評判通り、講義はとても面白かったし、毎週、書いた文章をフィードバックしてもらえるのも、良かった。文章で、自分の気持ちを他の人に伝えることができるなんて、思ってもみなかったし、その喜びは、今まで経験したことがないものだった。新しい世界が開けたような気がした。
新しい世界を開いてくれた天狼院書店は、私にとって、ダメ男などではなく、憧れの素敵なお姉さんだ。そのお姉さんは、知識が豊富で、話し方もとても上手だけど、奢っていない。誰にでも明るく話しかけてくれるような、気さくな性格だけれども、私のような平凡な人間にとっては、雲の上の存在のような人だ。それでも、思い切って、話しかけてみて良かった。お姉さんのおかげで、人生をもっと、楽しむことができるようになった。これからも、人生を楽しむために、天狼院書店を活用していきたい。もちろん、友達に心配されない程度に、ほどほどに。