捻挫をしたら迷路に迷い込んだ話

健康

お盆休み明け、出社初日のお昼休み、デスクで昼ごはんを食べた後、いつものように、お昼ご飯のゴミを捨てに行くときにそれは起こった。体のバランスを崩してしまったのか、その場に倒れそうになってしまったのだ。持っていたお昼ご飯のゴミが、ゆっくりと宙を舞うのが見えた。近くにあった机につかまり、なんとか倒れ込むことは避けられたが、足がとても痛い。結構大きな音がしたので、皆が駆け寄ってくる。足が痛すぎて、とても立てそうもない。キャスター付きの椅子に乗せてもらい、人に押してもらって、なんとか移動はできるようになったが、痛みはひどくなるばかり。今すぐにでも病院に行きたい。足が一体、どうなってしまったのか、すぐに調べてもらいたい。何度か行ったことのある、家の近くの整形外科のことを思い出し、タクシーで行くことにした。同僚に椅子を押してもらいながら、会社の出口まで行く。雨が降っていたので、タクシーがなかなか、捕まらない。雨が激しくなる中、同僚が傘もささずに、タクシーを捕まえてくれた。同僚に肩を貸してもらって、なんとかタクシーに乗り込む。タクシーに乗っている間は、痛みで時間がとても長く感じられた。

整形外科に着き、降りて、守衛さんの肩を借りて、中に入る。中に看護師さんがいて、車椅子を持ってきてくれたので、車椅子に乗り、押してもらって整形外科で受付する。待ち時間は長い。痛いのだから早くして、と思うが仕方がない。やっと診察の順番が回ってきた。まずは、レントゲンを撮る。それから先生の診察だ。足首を色々な向きに動かして、捻挫との診断。全治6から8週間とのこと。固定する必要があるので、副木という、軽めのギプスのようなもので固定してもらう。松葉杖も借りることになった。人生初の松葉杖だ。しばらくは、松葉杖で、不便な生活になりそうだが、痛み止めももらったので、痛みは何とか我慢できそうだ。

3週間程経って、痛みも取れてきた。リハビリも始まった。4週間経って、松葉杖が無しになり、固定していた副木も取れた。だんだんと元のように歩けるようになるだろう、そう思っていた。ところが最初に先生が言っていた6週間目に入っても、全然、元のように歩ける気配がない。一生懸命歩いても、片足を引き摺るように、ゆっくりしか歩けなかった。自分が以前どのように歩いていたのか、もう全然思い出せない。鏡の迷路に一人、迷い込んでいる気分だった。どこを見ても、みっともなく歩く自分の姿が映って見えた。どこに向かえば出られるのか、見当もつかなかった。まだ出られないのか、いつまでそこにいるんだ、という罵りの声も聞こえてくる。私だって早く出たいのに、ぐるぐるぐるぐる、出口に向かっているつもりでも、また元の場所に戻ってしまう。そんなことの繰り返しだった。なんでこんなことになってしまったのだろう。週1回のリハビリは真面目に通ったし、言われたことは一生懸命にやったのに、痛みはほとんど取れなかったし、歩き方や歩くスピードもほとんど、変わらなかった。

10月の中頃、8週間経っても痛いし、歩き方も変なままだった。私はずっと、怠けてるから、良くならないんだ、と夫から言われ続けていた。その頃、先生の診察があったが、患部を見ようともしてくれなかった。まだ痛いんですか?とだけ言われた。先生にも見放されたのだ。その日私は、もう2度と普通に歩けなくなるのではないかと、大泣きした。

そんな中、夫が美容院に行くことになった。全然良くならない私のことを相当イラついていたのか、夫は美容師さんにかなり愚痴を言ったようだ。しかし、この夫の愚痴から、私の捻挫治療は一変することになるのである。美容師さんが、自分が通っている整形外科を教えてくれたのだ。行き詰まっていた私は、藁にも縋る気持ちで、すぐにその整形外科に行った。不安な中、診察を待つ。先生の診察に先駆けて、リハビリ担当の方に、今までの経緯をお話しする。レントゲンを撮って、1時間半くらい、待っただろうか。診察の順番が来た。先生は、前の整形外科の捻挫治療は、方法としては正しいが、筋肉が硬くなる症状が出てしまっている、と言った。なんでも、捻挫など、怪我によって、筋肉が硬くなる症状が出る人がいるらしい。人によるみたいだが、私はそういうタイプで、それは怪我をしてみないと分からないらしい。時間はかかるけど、治りますよ、と先生は言ってくれた。私はそれで本当に救われた。迷路から出られた瞬間だった。迷路からは出られたが、まだ外には出られない。ただ、外に続く道が見えた気がした。私が怠けていたわけではなかったのだ。 リハビリは週3回来てくださいと言われたので、それから真面目に通っている。自分でも教えられたストレッチを行なっている。2週間くらいして、足首が少し柔らかくなり、痛みも少しずつ取れてきた。3週間経った時には、普通の人と同じスピードで歩けるようになり、良くなっている事を実感した。迷路の出口はきっと、もう、すぐそこだ。

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