「これは…夢が叶ったっていう事なのかな? それともやっと夢が始まったんだろうか…?」これはさくらももこ先生の『ひとりずもう』のクライマックスに出てくるセリフだ。さくら先生が夢を叶えられたのはニュートンと同じなのだと久しぶりに再読して感じました。
私もかべちゃんもさくらももこ先生が大好きだ。日常の会話でもちびまる子ちゃんのセリフやさくら先生のエッセイの話題がよく出てくる。さくら先生のように面白いエッセイを書けるようになりたいと常々思って書いている。
お盆に帰省した際、漫画版の『ひとりずもう』が机の上に置かれており久しぶりに再読した。やっぱり面白くあっという間に読み終わってしまった。『ひとりずもう』はエッセイ版が先に発売されており、それを漫画化したのが、漫画版の『ひとりずもう』だ。エッセイ漫画と言えば『ちびまる子ちゃん』そのちびまる子ちゃんと同じさくら先生が描いているので雰囲気は想像してもらえると思う。
『ひとりずもう』はちびまる子ちゃんの後の世界を描いた漫画だと言えば分かりやすい。さくら先生の小学校高学年から短大時代までが描かれている。出だしはちびまる子ちゃんがそのまま大きくなった感じでまるちゃんが生理について悩むところから始まる。生理に対して怖いと感じ、生理が始まらないように意味不明の努力をしていた事を笑いに変えるところなどはさくら先生のエッセイのようで面白い。夜布団に入って「生理にならないように」と神様にお願いするシーンでは、私も同じように何かを神様にお願いしていた事を思い出せられた。
高校は女子高に入学する。ちびまる子ちゃんにも出てくるたまちゃんと同じ高校になり、部活も同じ部活に入る事になる。この部活のチョイスがまた面白い。「すぐに帰れりゃそれでいいんだし」という理由で選び、興味も無いのによくその部活に入るなと感心してしまう。しかも早く帰れると思っていたその部活ではある資格を取らないといけず、資格を取るために勉強させられて早く帰られない始末。何の部活に入ったかは読んで確かめてみて下さい。
女子高の1年では周りが彼氏を作ったり、おしゃれをしたりしているなか馴染めないももこでしたが、2年になると他校の男子に一目惚れ。一目見てカバンを落とすほどの衝撃です。恋もさくら先生の恋は一味違います。何故か親に転職を進めるなど独特の感性で恋に悩んでいます。
3年生になる前の春休みから話が動きます。高校生活があと1年しかない事に気づき、昔からなりたいと思っていた漫画家になる夢にチャレンジします。あのグーたらだったももこが春休みで漫画を1つ描きあげて投稿するのです。しかし結果はBクラス。Aクラスにも入れなかった事にショックを受けて夢を諦めます。同じタイミングで矢沢あい先生も投稿していてもうひと息賞を受賞していたエピソードは興味深いです。コラムに矢沢あい先生との関係が書いてあってそれも併せて読むと面白いです。
夢をあきらめてからのさくら先生も一味違います。漫画の次に好きな物を次の夢に選ぶのです。この選択を前向き実行に移そうとするところが純粋でいいなと思います。しかし、その夢に一歩踏み出す勇気が出ずに諦める事に。その後、普通のOLも意外と悪くないと自分を納得させて、進路希望に短大と書いて提出します。
短大の模試を受ける事になります。作文の試験ではあっという間に書きあげてさっさと帰ってしまうところがさくら先生らしくて面白いです。その作文が「高校生が書いたとは思えない、エッセイ調の文体がすばらしい。まるで清少納言が現代に来て書いたのかと思うような作文でした」と高い評価を受けて返ってきます。さくら先生のエッセイが好きな私としてはこの時に書いた作文をとても読んでみたいと思います。
さくら先生は「ただ褒められた嬉しい」で終わらずにその先を一歩踏み込んで考えたのが凄いと思います。エッセイなら上手く書ける⇒エッセイを漫画にしてはどうかと閃いてちびまる子ちゃんを描いてみる事を決意します。まるでりんごが落ちるのを見て、地球に引っ張られているのではと考えて万有引力の法則をニュートンが導き出したのに似ていると思いました。何気ない結果の一歩先を考える事はとても重要だと感じます。
そこからのさくら先生はエッセイ漫画の可能性にかけてひたすら描き続けて投稿し続け、デビューを勝ち取ります。デビューが決まった瞬間の「これは…夢が叶ったっていう事なのかな? それともやっと夢が始まったんだろうか…?」というセリフとももこの表情がとても印象的です。夢は叶えて終わりではなく、叶えてからが始まりなのだと改めて考えさせられました。
私にはここまで情熱を傾けてつかみ取る夢が無かったのでうらやましく思います。しかし、成功のきっかけをつかみ損ねないために、さくら先生のように何気ない結果の一歩先を考えて生きていきたいと思います。『ひとりずもう』はちびまる子ちゃんがさくら先生になる物語です。笑えるだけではなく、生き方を考えさせられる面白い作品です。多くの人に読んでもらいたいと思う作品です。