「奥醫院」と書かれた門をくぐって進んでいくと病院の入口のようなドアがある。ドアを入って右手が受付になっているのだが、その受付もまるで病院のカウンターのようだ。予約している旨を伝えるとチェックインの手続きを行うという事で奥に案内された。廊下も病院のようだった。
案内された先は中庭があるフレンチレストランだった。ウェルカムドリンクの冷たい煎茶とほうじ茶のブラマンジェが供されてチェックインの手続きを行った。その時に建物について説明された。耳鼻科の診療所の洋館はフレンチレストラン、お住いの和の建物を宿泊施設に改装したそうだ。入口から感じていた病院のような感じについてはそう言う事だったのかと納得した。
お住まいのお屋敷を6棟もの一棟貸しの宿に改装したというのだから、元はとても大きな建物だったのだろう。中庭には茶室もあるという事だ。
チェックインを終えて部屋に案内してもらった。雨が降っていたのだが軒下を伝って歩いていく事で傘を差さずに部屋まで移動できた。軒下っていいなと感じた。
部屋は「高浜」「千鳥」「能野」「秋月」「晴風」「翠松」の6種類それぞれ一棟貸しになっており趣の異なる作りになっているそうだ。私達は「翠松」という部屋に泊まった。ガーデンテーブルのある専用中庭と和モダンな雰囲気の部屋だ。さすがに部屋には病院の雰囲気は残っておらず、とても落ち着いた雰囲気だった。
部屋はまるで自分の家のようにくつろげる雰囲気だった。とても気に入った点が2つある。1つめはBluetoothスピーカーがある事だ。今回の旅行はaikoのライブの遠征が目的の1つだったので部屋の中でaikoを良い音で聴けるのはライブへの気持ちを盛り上げるのにとても良かった。
2つめは地元のコーヒー専門店「STRINGS COFFEE ROASTERS」のコーヒー豆が置いてある事だ。しかも出来合いのドリッパーが置いてある訳ではなく、豆とミルとドリッパーが用意されていて自分で曳いて、淹れて飲む事が出来るのだ。コーヒー好きの私には堪らないサービスだった。
この宿の最大の魅力の1つはその立地にある。出雲大社の一の鳥居と二の鳥居に続く神門通りのちょうど真ん中くらいあるのだ。神門通りにある様々なお店を見て回るのにも、出雲大社をお参りするにもちょうど良い場所なのだ。この立地のおかげで宿にチェックインした後と翌朝の早朝の2回出雲大社にお参りする事ができた。早朝の出雲大社は人が少なく、荘厳な佇まいを静謐な雰囲気の中で感じられた。なかなか経験できない事だと思うので島根旅行の際には是非体験してもらいたい。
出雲大社周辺には沢山のお土産屋さんや飲食店などのお店が立ち並んでいる。旅行のなかの限られた時間内に全てを回るのは難しいが、この立地のおかげで沢山見て回る事ができた。チェックアウトした後も車を停めさせてもらってみて回る事ができたので、実質丸1日くらい出雲大社を楽しむ事ができたのはこの宿のおかげである。
さて、もう1つの宿の魅力は食事だ。夕食は地元の食材を使ったフレンチが美味しいとの事で予約の時から楽しみにしていた。しかも、日本酒のペアリングがあると言う。1皿1皿に合う日本酒を少しずつ出してくれると言うのだ! 日本酒好きには堪らないサービスだ。しかも島根で作られた日本酒をペアリングしてくれるので旅先で楽しむ料理としては最高だ。
今日のコースは『香り』がテーマと言う事でメニューを見ても料理の想像が付かなかった。例えば『出雲 夏の香り』とか、『烏賊 対比と調和』と言った感じだ。どんな料理が出てくるのか楽しみで料理が出てくるのが待ちきれなかった。出てきた料理はどれも想像を超えていて、見た目も味も初めて経験する物ばかりでとても美味しく、楽しかった。フレンチと聞いて堅苦しい物かと思っていたが、全然そんな事は無かった。
特に印象的だったのは『茄子のポタージュ 焼き茄子』と『夏の出雲鹿 炭の香り』だ。メニューを見た時にはポタージュと焼き茄子が出てくるものとばかり思っていたが、焼き茄子がポタージュされていた。焼き茄子が食べたかったのにと少しがっかりしたが一口飲んでびっくりした。このポタージュはまさに焼き茄子だった。ポタージュになる事で凝縮されており焼き茄子を食べるよりも焼き茄子を食べた感じがした。
鹿の料理はその場で『黒文字』に火を付ける演出があった。火を付けた後、蓋をして燻製にしたものが出てきた。ジビエなのでにおいがきついので燻製にするのかと思ったが、そんな事はなくさっぱりとしていて美味しかった。説明ではこの近くの山で獲れた鹿を使っているという説明に驚いた。翌日車で走っていると鹿注意の看板が出ていたのでこの辺で獲れたのかと面白かった。
ペアリングで出てきた日本酒は6種類。安来市の吉田酒造の月山スパークリング、出雲市の板倉酒造の無窮天穏 水母、出雲市の奥出雲酒造のおくいずも純米吟醸ニチニチソウ、松江市の李白酒造の李白 黒米仕込 華露、出雲市の富士酒造の出雲富士 純米吟醸 赤ラベル、浜田市の日本海酒造の環日本海 純米吟醸 さやか仙人 NEO。そうそうたる顔ぶれだ。それぞれに個性があり料理に合っていて美味しかった。これだけの種類を一気に楽しむ機会はなかなか無いので非常に楽しめた。日本酒好きな人には是非体験して欲しいサービスだ。
朝食も夕食に負けず劣らずの内容だった。ラタトゥイユから始まってサラダに見えないサラダ、初めて食べるタルティーヌ、ガレットとは一味違う蕎麦のクレープと朝からちょっとしたエンターテインメントだった。ヨーグルトの付け合わせに出てきた出西生姜ジャムが秀逸でとても美味しかった。量は少な目の朝食だったが、質の面で大満足だった。量が少ないおかげで神門通りのお福焼きを食べ歩きする余力が出来たのも嬉しい誤算だった。
長々と書いてしまったが、泊まった宿は『NIPPONIA出雲大社 門前町』である。出雲大社を満喫するには最高の立地と島根を食べつくし、飲み尽くせる料理の数々は島根に来たら是非とも泊まって欲しい宿の1つです。自信を持ってお勧めできます!