黒髪ロングストレートの乙女は楽じゃない

美容

ああ、また絡まってる! 嫌だなあ。

最近、髪を洗って、乾かすたびに、こうなのだ。一生懸命に髪をとかさないと、全然絡まりが取れない。長い髪がこんなに大変だなんて、今まで知らなかった。

3年くらい前から、髪を伸ばしている。私は夫から、一度でいいから、黒髪ロングストレートにしてほしい、とずっと言われ続けてきた。でも私は、ショートとか、ボブとか、短い髪型の方が似合うと思っていたし、美容師さんからも、そうやって言われていた。色も、黒よりは少し茶色いくらいの方が好きだ。短い髪型が似合うなんて、ラッキー! 洗うのも楽だし、乾かすのも楽だし。面倒くさがりの私は、そう思って、夫の意向は全く、取り入れてこなかった。

ところが、40代に入ってから、少しずつ、容姿の衰えが気になるようになってきた。目尻のしわ、下がってきた頬、そしてぽっこりしたお腹。若い頃には気にもしていなかった。そして、はっと気づいたのだ。もしかして、髪もこうやって衰えていくのでは……。幸いにして、まだ白髪は少ないが、これから増えてくるかもしれないし、髪の量が、減ってくるかもしれない。そうしたら、夫の希望の、黒髪ロングストレートを、実現できなくなってしまうではないか! もう、あまり時間は残されていないのかもしれない。焦った私は、その時から、髪を伸ばそう、と決意した。そして夫に、「黒髪ロングストレートにする!」と力強く宣言したのであった。

最初は、楽勝と思っていた。髪なんて、ほっとけば伸びる。美容院に行っても、切らなければいいだけの話だと思っていた。甘かった。

まずは肩より下の長さになるまでが大変だった。肩より下くらいになれば、髪がうっとおしいとき、束ねることができるが、それまでは、首周りにまとわりつく髪が嫌で仕方がなかった。ああ、そうだった、私はこれが嫌で、いつも切ってしまうんだった、と思い出したが後の祭りである。あんなに力強く宣言した手前、今更やめるなんて言えない。それに、今諦めてしまったら、もう一生、黒髪ロングストレートにはなれないかもしれない。そう思いながら、毎日をやり過ごしていたら、そのうち、髪は肩の下まで伸びてきて、束ねることができるようになった。ボブからセミロングへ。第一関門突破である。

ここからはもう楽かしら、と思っていたが、まだまだ試練は続く。少し長くなってきたので、髪のゴワゴワが気になるようになってきたのだ。今まで、何度もカラーをしてきて、傷んでいるのだ。美容院では、カラーをしたら、トリートメントもするようにはしていたけれど、私が美容院に行くのは、3ヶ月に1度、下手したら4ヶ月くらいだ。そんな程度のトリートメントでは、全然足りないのかもしれない。

そこで私は、美容院に行く頻度を、今までの倍くらいに、増やそうと思った。そして、美容院に行ったら、次回の予約を入れてくる作戦を展開することにした。美容院の予約の電話をするのが、面倒だから、強制的に予定を入れてしまおう、というわけだ。この作戦は、面倒くさがりの私にはぴったりだった。こうして、ここ1年ほどは、まめに美容院に通っている。

ちなみに黒髪にチェンジしたのは半年くらい前だ。それまでは、まだ長さが足りないからいいだろうと、少し茶色っぽいままだったが、夫からせっつかれて、とうとう黒髪にしたのだ。本当は、子供っぽくなるのではないかと思って、気が進まなかったが、実際、黒髪にしてみると、意外なほどしっくりきた。会社の人にも、髪、きれいですね、なんて言われて、まんざらでもない気分だ。その後、調子に乗ってストレートパーマまで、かけてしまった。

しかし、そのストレートパーマがいけなかったのだろうか。急に、髪がゴワつき始めたのだ。おかしい、まめに美容院に行ってトリートメントもしているのに。そうやって美容師さんに言うと、だいぶ深刻な顔で、「家でもトリートメントした方がいいよ。このままだと、髪やばいよ」と言われてしまった。長い付き合いの美容師さんがそんなふうに言うなんて、私は危機感を感じた。それ以来、私はずっと、家でもトリートメントを続けている。

それでも、長い髪は絡まりやすい。髪を洗った後に乾かすときや、朝起きたときなど、複雑に絡んでいて、まるで、パソコンの裏のコード類のようだ。昨日の夜、トリートメントの後は、あんなにサラサラだったのにな、と思いながら、鏡の前で毎朝格闘している。

長い髪がこんなに大変だなんて、本当に知らなかった。放っておくと、すぐ散らかってしまう部屋のように、長い髪も、あっという間に絡まってしまうんだ。きれいな部屋を保つには、片付けたり、掃除する人が必要だ。私の長い髪は、きれいな状態を保つために、私が頑張ってお手入れしなければいけないのだ。

ときどき、もう切ってしまおうかな、と思う時もある。だが、黒髪ロングストレートの髪型を楽しむことができる時間は、今を逃したら、きっともう二度とない。そう思いながら、今日も私は、絡まった髪をとく。

タイトルとURLをコピーしました